新版『春と修羅』のお知らせ

2025年2月21日(金)杉並公会堂小ホールにて新版『春と修羅』公演を行います。

このコンサートは、2年の準備期間を経てついに実現することになりました。初めは僕が仲の良かった作曲家の吉田優歌が藝祭で宮沢賢治をテーマにした演奏会を開催していたことを知り、ぜひ参加と続編を企画させてほしいと申し出たことがきっかけでした。その賢治をテーマにした演奏会を一緒にやっていたのが吉田の大の仲良しで作曲家の林梨花です。3人でコンセプトを話し合い、企画書をブラッシュアップし、ついに来月に公演を開催します。

今回のテーマは宮沢賢治の詩集『心象スケッチ 春と修羅』。

そこからそれぞれの作曲家が作曲したいと思った詩を選びました。それらが『青い槍の葉』、『真空溶媒』、『原體剣舞連』です。

そしてここからが私たちのユニークな部分。それぞれが選んだ詩をもとに作曲を行い、できた作品を作曲家同士が交換します。それらを読み取り、その『応答句』を書くことで今回の演奏会で披露する作品たちを制作しました。今回はこの手法を『青い槍の葉』『原體剣舞連』で行っています。これにより、単なる二人展ではなく作曲家が密接な共同作業を行って作り上げるひとつのコンサートとなるように工夫しています。

ここでいう「応答」という言葉はさまざまな意味を持ちます。親愛なる友人への手紙の返事のような役割や、詩に対する解釈の違いを返答する可能性もあります。中でも僕が一番紹介したいのは作曲技法上の応答ということです。現代音楽をフィールドにする彼女たちは単純に聴きやすく感傷的な音楽を書くわけではありません。独自の音列使用や拡張された特殊奏法使用などの現代作曲技法を学び、実践する彼女たちの作品は結果的な音響だけでなく、根源的な音の選択のルールのレヴェルで「応答」しようとしているのです。

演奏者の僕は『応答句』まで出来上がった時点で楽譜をいただきました。普段はとても仲の良い二人ですが、楽譜の「顔」は全く異なっています。同じ詩をテーマに「応答」した作品がどう響き合うのか、これから始まるリハーサルや演奏会本番がとても楽しみです。そして『真空溶媒』は吉田と僕が共同で作るパフォーマンス作品です。「ことばの波にのって、ふたりの若き作曲家の紡いだ音色が心に響く」というキャッチコピーにはこんな意図が秘められています。

また、コンサートではいわゆる難解な現代音楽だけに偏らず、映画『蜜蜂と遠雷』で使用された藤倉大氏の『春と修羅』や、ベートーヴェンのピアノソナタ『月光』をピアニストの渡辺友梨香さんにお願いしました。これは宮沢賢治の世界観に寄り添い、コンサート全体の構成の中で想像を膨らませるアクセントとなるようにプログラムしています。

一方で、僕はシュトックハウゼンのトロンボーン独奏曲『In Freundschaft』を演奏します。「歌」の対極にあるような音楽が表現する「友情」とは何なのでしょう。この作品はふたりの作曲家の「応答」を中心に据えたこのコンサートのコンセプト自体と呼応します。

つまり、全体があるひとつの物語となる小説ではなく独立した作品を集めた詩集という『春と修羅』をテーマにしたこの演奏会は、作曲家による二人展という性質や、異なる背景を持つさまざまな音楽のコレクティブという側面、そして宮沢賢治という今も私たちを魅了して止まない芸術家の現代的な再解釈の可能性の提示など、さまざまな側面から楽しむことのできる複雑な織物のような場となることでしょう。現代音楽や文学、現代芸術や哲学など、さまざまな興味関心を持った方に聴いていただきたいと思っています。

ぜひ会場でお聴きください。

新版『春と修羅』
2025年2月21日(金)杉並公会堂小ホール
開場 18:30
開演 19:00
出演 渡辺友梨香 二階堂充教 酒井弦太郎 吉田優歌 林梨花 大関一成
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