前回の記事では、トロンボーンの基礎練習と教則本をご紹介しましたが、今回は現役奏者で、東京藝術大学大学院に在籍する著者が実際に取り組んだおすすめのエチュード集をご紹介したいと思います。記事の後半に、目的や特徴別におすすめのエチュードを紹介しています。
おすすめエチュード集と題していますが、書き終えてみると、僕自身がこれまで取り組んできたエチュード集の紹介のようになってしまいました。今後演奏の上達を目指す方々の参考になれば幸いです。
↓前回の記事はこちら↓

そもそもエチュードとは何か?
エチュードとは、日本語で練習曲のことです。エチュード=練習曲には、演奏の上達に欠かせない様々なエッセンスが盛り込まれています。エチュードに取り組むことで、技術的にも音楽的にも多角的に成長することができます。
ところで日本語で「練習曲」というと、本番を迎えることのない地味でつまらない基礎練習の集合体のように感じませんか?実際にはそのようなことはないのですが、僕はそのような印象をなくすために、あえて「エチュード」と呼んでいます。「今日はエチュードをやるんだ!」というだけで、少しカッコイイ気がしてやる気が出ませんか?
また、エチュードは単なる上達のためだけにあるのではなく、楽器の演奏の粋を集めた芸術作品としても親しまれています。最も有名なのは、ピアノのためのショパンのエチュードではないでしょうか。トロンボーンにもいつかそのような偉大なエチュード作品が生まれることを願っています。
教則本とエチュード集の違いは何か?
教則本とエチュード集の違いを表にまとめてみました。
| 教則本 | エチュード集 | |
|---|---|---|
| 目的 | 演奏のための教科書的存在 基本的な奏法を学び、実践する など | 学んだ奏法を実践的に身につけていくためのトレーニング |
| 内容 | 基本的な奏法の説明 練習パターンの譜例 簡単なエチュード など | エチュード 簡単な説明 (教則本より説明が少ない場合も多い) |
| 対象者 | 初学者向けが多い | レベルや練習の目的に合わせて様々 |
| 教則本 | エチュード集 | |
|---|---|---|
| 目的 | 演奏のための教科書的存在 基本的な奏法を学び、実践する など | 学んだ奏法を実践的に身につけていくためのトレーニング |
| 内容 | 基本的な奏法の説明 練習パターンの譜例 簡単なエチュード など | エチュード 簡単な説明 (教則本より説明が少ない場合も多い) |
| 対象者 | 初学者向けが多い | レベルや練習の目的に合わせて様々 |
多くの書籍の場合で教則本とエチュード集の要素の両方が入っているため、厳密に区別することは難しいですが、上記のような違いがあるのではないでしょうか。
簡単にいえば、教則本は説明が多く、物事を理解することに重点が置かれている教科書のような存在であるのに対し、エチュード集は説明が少なく、実際に何回も演奏することで様々なスキルを身につけることに重点が置かれたドリルのような存在です。
どんな時にエチュードに取り組むべきか?
「楽器を始めたばかりだからエチュードに取り組むのは早すぎるのではないか」とか、「エチュードに興味はあるが、どんな時にどのように取り組めばいいのか分からない」と悩んでいる方もいるかと思います。それでは、どのようなときにエチュードに取り組むのが良いのでしょうか
僕は、まずは普段の練習に少し余裕がある時にエチュードに取り組むことをおすすめします。例えば、ご自身の所属する楽団や部活動の本番に向けて練習している方なら、まずは本番で発表する作品を優先して練習してみてください。その上で、本番が少し先だったり、だいぶ吹けるようになってきて、自分の練習に少し余裕が出てきたらエチュードに取り組んでみると良いと思います。そうすることで、モチベーションを維持しながら、より高度な演奏技術を身につけることができます。
また、音楽大学への進学など、より高度な演奏を目指している方はエチュードが必須になります。多くの音大入試ではエチュードが課題として指定されているほか、生涯を通じて上達していくためにはエチュードが欠かせません。もし、師事している先生がいらっしゃれば、取り組むべきエチュードの相談をしてみましょう。僕自身は、高校へ進学してから個人レッスンへ通うようになり、そこで先生からエチュードを練習して持ってくるように言われて取り組むようになりました。
そして、取り組むエチュード集を決める時には、練習の目的を考えてみることをおすすめします。例えば、オールラウンドになんでもできるような技術力をつけたいのであればコプラッシュ、美しい旋律を演奏できるようになりたいのであればメロディアス、というように自分の課題や目標を考えてみると選びやすいと思います。
どこで購入するか?
トロンボーンのための主要なエチュードは、ほとんどが海外の出版社から出ています。そのため、国内在庫がなかったり、一般の楽器店の店頭にはあまり並んでいないものも多くあります。
当記事では、できるだけ購入するためのURLを記載していますが、中には執筆時点で在庫切れのものもあるため、気になったものがある方は、ご自身で検索してみてください。
また、トロンボーンのためのエチュードは絶版になってしまうこともあるため、店頭で見かけた際には、遠慮なくご購入されることをおすすめします。
このほかに、海外通販サイトで購入する方法もあります。ただし、海外通販サイトは、送料が高額かつ配送までに時間がかかるため、利用する場合には時間に余裕を持ってまとめ買いをすることをおすすめします。
(参考)海外楽譜通販サイト
僕自身も利用している海外楽譜通販サイトはこちらです。
ドイツ:Stretta Music https://www.stretta-music.de/
アメリカ:Hickey’s Music Center https://www.hickeys.com/
おすすめエチュード集の選定基準
この記事で紹介しているエチュード集の選定基準はこのようなものです。
- 今まで僕自身が取り組んできたものから選ぶ
- 僕自身がやりがいや楽しさが見出せたものから選ぶ
- トレーニングとして有意義なものから選ぶ
特に、自分自身が取り組んできたということに重点を置いてリストアップしています。
これは欠かせないトロンボーンのための必携エチュード集
この2冊は、ぜひ持っておきたいというエチュード集2つです。
コプラッシュ/60のエチュード
金管楽器のためのエチュードで避けては通れないコプラッシュ。元はホルンのためのエチュードでしたが、現在は全ての金管楽器でエチュードとして親しまれています。
内容は、スケールとアルペジオを駆使したものと、旋律的なエチュードの2パターンがあります。曲の長さも様々で、練習の目的によって取り組むエチュードを豊富な選択肢の中から選べることも大きな利点です。トロンボーンが苦手とするシャープ系の調や、ハ音記号の読譜など曲ごとにテーマがあり本当に様々なエッセンスが詰まった名エチュード集です。
全体的な傾向として、非常にシステマティックに演奏を身につけることに主眼が置かれているため、ややもすると機械的で無機質な練習になってしまう危険があります。そのため、次に紹介するメロディアスエチュードを併用することをおすすめします。また、バストロンボーンには音域が高すぎる場合があるため、適宜オクターブ下で演奏すると良いでしょう。
自分自身は、藝大入試のために取り組み始めました。現在は、テナートロンボーンの基礎的な技術とスタミナをつけるために使用しています。
ロッシュ: ボルドーニのヴォカリースに基づく旋律的練習曲【通称:メロディアスエチュード】
長いタイトルですが、通称では「メロディアスエチュード」もしくは「ロッシュ」、「ボルドーニ」と呼ばれています。
元々は声楽のために書かれた旋律的な作品を、トロンボーンで演奏できるようにしたエチュード集です。トロンボーン、ユーフォニアム、チューバ奏者なら一度は耳にしたことのあるであろう旋律が多く掲載されています。
良い音で、美しいレガートを演奏できるようになるために最も適しているエチュード集です。こちらも僕が音楽大学を受験するにあたって取り組み始めました。大学入学後も、ずっと愛用しています。
特に、息の流れをスムーズにし、後押しの矯正をすることや、イントネーション(音高や音程)を整えることに有効です。僕は、書かれた標準の旋律と、1オクターブ下、2オクターブ下の3種類を同じように演奏する練習を行なったほか、先生や同級生とオクターブユニゾンで一緒に演奏することで多くのことを学びました。
現在でも、自分の調子を整えることや、楽器の状態を確かめるために使っています。
スケール/アルペジオ練習に特化したエチュード集
スケールとアルペジオを体系的かつ効率的に練習するためのエチュード集です。この中から気になったものを1つ持っておくと、普段のトレーニングに役立ちます。
ミューラー:Technical Studies: Volume I(技巧練習曲 第1巻)
ロバート・ミューラーによる古典的なトロンボーンのためのエチュード集です。古典的な名著で、大学に入学後、古賀慎治先生からの紹介で出会いました。
これを1冊仕上げることができたら、相当なトレーニングになると思います。
ラフォース:Vade Mecum
少々マイナーなエチュード集ですが、全調のスケールとアルペジオを学ぶのに良いエチュードです。使用されている音域から、特にテナートロンボーンの方におすすめします。
Vade Mecumとはラテン語でハンドブック、ガイドブック、参考書を意味するようです。
残念ながら、国内では高額なエチュード集ですが、1冊あると長く使えます。自分自身は、高校生の時に入手し、次に紹介するドムスと合わせてスケールとアルペジオの習得のために使用しました。現在でもこのパターンで基礎練習を行うことがあります。
ドムス:音階と分散和音練習、バス・トロンボーンのための
ヨハン・ドムスはカラヤン時代のベルリンフィル主席トロンボーン奏者で、数々の名奏者を育てた教育者でもあります。彼のエチュードやアンサンブルのための楽譜は、現在でもドイツ語圏を中心に使われています。
このエチュードは、バストロンボーンの音域に適したスケールとアルペジオが掲載されたエチュード集です。調性ごとに非常にシステマティックにまとめられており、自分自身は浪人中から学部生の間によく取り組みました。これにより、基礎的なスケールとアルペジオの技術が身についたと感じています。
バストロンボーンのためのエチュード集
バストロンボーンのためのおすすめエチュード集です。
ペダーソン:バストロンボーンための無伴奏ソロ集Vol.1
ペダーソンはアメリカで活躍したジャズトロンボーン奏者です。
この作品は、エチュードとは名付けられていないものの、エチュードとして取り組むのにぴったりな内容の10曲が収録されています。バストロンボーンらしい音域で、2つのバルブを駆使し、表現豊かに演奏することを学べる1冊です。ちょっとしたソロの演奏機会にもちょうど良い作品が多数収録されています。
僕自身は、浪人中に取り組んだことで、楽器を通して歌うことが学べました。今でも、この作品集で練習しています。
ドムス:24の練習曲、バス・トロンボーンのための:技術とイントネーション
先ほども登場したドムスによるエチュード集です。ペダーソンに比べて、より技術的な練習に特化した内容になっています。
こちらも僕自身は、浪人中に取り組みました。バストロンボーンのサウンドを作る上で、非常に役立ったと感じています。
Blume(ブルーメ、ブルーム):Fアタッチメント付きトロンボーンのための36の練習曲集
ブルーメはバストロンボーンのエチュードとして有名なエチュード集です。内容は、コプラッシュのようにシステマティックなエチュードが掲載されています。また、冒頭に載っている全調のスケール練習は暗譜して演奏できるようになると良いと思います。
僕自身は、大学に入学後、学部生の間に取り組みました。こちらもサウンドを作っていく上で、非常に学びの多かったエチュード集です。
ラフ:ダブル・ヴァルヴ・ベース・トロンボーン教則本
アラン・ラフはメロディアスエチュードの編纂も行なったアメリカのバストロンボーン奏者です。このエチュードでは、2つのバルブを操作するバストロンボーンのために書かれたエチュード集です。
ここにはエチュード集として紹介していますが、説明が充実しており、教則本のような内容でもあります。
リップスラーに特化したエチュード集
エドワーズ:リップスラーメロディーズ
近年のトロンボーン界隈を席巻したと言っても過言ではないエチュード集です。メロディを全てリップスラーで演奏するというコンセプトで書かれたエチュードが、音域ごとにまとめられています。
特殊奏法に特化したエチュード集
現代音楽で頻繁に用いられる特殊奏法に特化したエチュードです。
スヴォボダ:コンサート・エチュード(演奏会用練習曲)第1集:第1番−第5番
マイク・スヴォボダは、トロンボーン奏者であり、作曲家です。主に現代音楽の第一線で活躍しており、多数の作品が出版されています。このエチュード集は、彼が作曲した現代音楽に頻出する特殊奏法を効果的に用いた5曲が収録されています。タイトルに、コンサート・エチュードとあるように、単に練習のためだけでなく、実際に演奏会で発表しても十分音楽的に楽しめる内容となっています。
僕自身は、村田厚生さんのリサイタルで初めて出会いました。
番外編①:デュエットで学ぶ おすすめデュエット曲集
1人で練習するのはちょっと退屈しそうという方には、デュエットで練習することもおすすめです。
僕自身は大学入学後に、先生とデュエットをやっていただいたことで多くの学びがありました。それを参考に、自分自身が講師としてレッスンする際にも、先生方から教わったペダーソンのデュエット曲集を用いて、受講生の方とデュエットを行なっています。
ペダーソン:10のテナートロンボーンデュオ
ペダーソン:テナーとバストロンボーンのための10のデュエット
ペダーソン:バストロンボーンのための10の二重奏曲集
番外編②:カルテットで学ぶ おすすめカルテット曲集
トロンボーンの大きな魅力にアンサンブルでのハーモニーがあります。その中でも、4人集まって演奏するカルテットはレパートリーも多く、取り組んでいる方も多いはず。
そんなカルテットで、サウンド感を統一し、一緒に良い音楽を作るために継続的に取り組みたい曲集をご紹介します。
ミューラー:四重奏曲集
ミューラーによるドイツ語の声楽曲が元になったトロンボーン四重奏曲集です。
僕自身は、大学入学後に仲間と一緒にハーモニーを作る練習のため、初見でこの四重奏曲集に取り組みました。全3巻ありますが、まずは第1巻から取り組むことがおすすめです。
終わりに
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
自分がこれまでに取り組んできた全てを紹介することはできませんでしたが、トロンボーンを上達するためにぜひ知っておいていただきたいエチュードをしっかりと書くことができました。ぜひ、気になったものに取り組んでいただければと思います。
また、エチュードを1人だけで進めていくのはとても大変なことです。レッスンに通って、専門的なアドバイスを受けながら取り組むと、より音楽を深く理解し、楽しむことができると思います。僕自身、各種レッスンを行っていますので、お気軽にコンタクトページよりお問い合わせください。
次回は、僕が最近読んだ音楽家のためのメンタルトレーニングについての書籍をご紹介しながら、「緊張との付き合い方」について記事を書こうと思います。ぜひまた読んでいただけると嬉しいです。



コメント